トランプ大統領による米韓FTAとNAFTAの見直し

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    JUGEMテーマ:通商政策

     

     今日は「トランプ大統領による米韓FTAとNAFTAの見直し」と題して論説します。

     

     日米FTAとは、日本と米国の二国間自由貿易協定なのですが、現時点で日本は日米FTAを締結していません。しかしながら、韓国は一足先に早くから、米国と二国間自由貿易協定、通商「米韓FTA」を締結しています。時期は今からちょうど12年前の2007年6月30日に署名し、2012年3月15日に発効となっています。

     

     しかしながらトランプ大統領になってから米韓FTAは見直され、新米韓FTAとして既に発効され直しています。

     

     古い記事ですが、ブルームバーグの記事をご紹介します。

    『ブルームバーグ 2018/09/25 07:44 米韓首脳がFTA見直し案に調印−国連総会に合わせ

     トランプ米大統領と韓国の文在寅大統領は24日、見直し交渉後に合意していた米韓自由貿易協定(FTA)に調印した。国連総会に合わせ、トランプ大統領にとって就任後初の大型貿易協定の調印がニューヨークで行われた。

     貿易アナリストらによれば、米韓FTAの改定は化粧品分野が中心だった。議会承認が必要になる米通商法の発動をトランプ大統領が拒否し、再交渉分野を制限したためだ。3月にホワイトハウスが公表した新協定内容では、関税と自動車輸出枠が修正されていた。

     トランプ大統領は24日、米韓FTAは内容を若干修正したものというより「全く新しい協定」だと述べた。一方、文大統領は通訳を介して、米韓両国はFTAを「改定」したと語った。

     トランプ大統領は、「われわれは韓国への製品輸出を開始する」とした上で、「最も素晴らしい米国製自動車や革新的医薬品、農作物の韓国市場へのアクセスは大幅に拡大する」と指摘した。

     改定FTAにより、米自動車メーカー各社は従来の2倍の5万台まで、韓国国内の安全基準を満たさなくても輸出が可能になる。しかし現在、韓国国内での販売台数が年間1万台を大幅に上回る米メーカーはない。

     韓国はまた、韓国製トラックへの25%の米関税について失効期限を従来予定の2021年から41年に先延ばしすることに同意。また韓国製鉄鋼の輸出枠設定も受け入れた。

     韓国はFTA見直し案の来年1月1日発効を見込む。文大統領は、「米韓両国企業は、より安定的な環境の下でビジネスを行えるようになるだろう」と述べた。

     ただ韓国の議員らは、米国が韓国製自動車に追加関税を発動させた場合はFTA見直し案を承認しないと述べている。米韓FTA見直し案の批准には韓国議会の承認が必要。』

     

     トランプ大統領は、この新米韓FTAが素晴らしい貿易協定になったとして、満足の意を表しています。

     

     もともと韓国の貿易は、厳しい状況となっていました。下記グラフの通り、米韓FTA発効後、2015年をピークに貿易黒字は減少傾向となっています。

     

    <韓国の対米輸出入・貿易収支の推移>

    (出典:ジェトロのホームページから)

     

     

     2018年1月発効の新米韓FTAのポイントは、自動車とISDS条項です。

     

     まず自動車については、米国が輸入する韓国製のピックアップトラックの関税25%の撤廃時期を20年延期して2041年からとした他、米国車を韓国が輸入するのに関して、米国の自動車メーカー別に年間5万台(現行は25,000台)まで、米国の安全基準を満たした車両を韓国の安全基準を満たしたものとみなすなど、米国が韓国に自動車を輸出するのに有利な改定になっています。

     

     米国の自動車メーカーのフォードやクライスラーといった企業にとっては、ありがたい話だといえるでしょうし、韓国のピックアップトラックを製造するメーカーにとっても、ありがたい話といえます。

     

     自動車の輸出入について、新米韓FTAは米韓が共にWIN−WINとなるような内容になっています。

     

     2つ目はISDS条項の乱訴に歯止めをかけるというもの。このISDS条項というのは、日本でもTPPへの加盟の是非の議論でよく取り上げられました。

     

     当時のTPPの議論では、TPPに加盟するとグローバル企業が海外に投資をするようになり、その投資先の国家が規制をしたことで企業が損失を被ったならば、その国家を訴えることができ、しかもグローバル企業に有利な判決が出るため、国家の主権が侵されるということで問題だという議論がありました。

     

     まさに、グローバル企業と国家間で発生した紛争を処理するルールを定めているのがISDS条項なのです。

     

     そしてそのISDS条項があるがゆえに、グローバル企業は安心して投資ができるのです。

     

     しかしながら、このISDS条項は、先述の通り企業に有利な判決が出やすいのです。企業の立場が国家よりも強いということで、グローバル企業による国家に対する訴訟が乱発され、国家主権がどんどん制限されていくという問題がありました。

     

     ISDS条項が問題だと思うのは、そもそも裁判所がどこの裁判所なのか?ということに尽きます。米国国内では、世界銀行のグループの一つ、国際投資紛争解決センターというグローバル組織です。そのため、グローバル裁判所であることから、グローバリズム有利で反国家の判例が出やすく、国家に対して厳しめの判決が出やすいのです。

     

     このようなISDS訴訟が乱発されると、国家主権が危うくなるというわけで、反グローバリズムからみれば、ISDS条項は大きな問題です。

     

     米国は、もともとISDS条項が入っていることを推進し、日本も推進していたため、日米共にTPPでISDS条項は、入っていた方がよいという論調でした。

     

     ところがトランプ大統領が登場してから米国は変わりました。トランプ大統領は、もともと反グローバリストであるため、ISDS条項を問題視していたのです。

     

     その証拠にトランプ氏は大統領になってからすぐにTPP加盟交渉から離脱。理由はISDS条項を問題視していたからで、すでに加盟していた旧米韓FTAやNAFTAでもISDS条項が入っていました。

     

     どちらかといえば、米国のグローバル企業にとっては、ISDS条項が入っていた方が有利だと考えられるのですが、トランプ大統領はISDS条項を問題視し、NAFTAからもISDS条項を外しています。

     

     こうした新米韓FTAを2018年1月から発効させた韓国ですが、先述のグラフの通り、韓国からみれば2017年と比べて2018年度は貿易黒字は減少しているものの、輸出も輸入も伸びているのです。

     

     

     というわけで今日は「トランプ大統領による米韓FTAとNAFTAの見直し」について取り上げました。

     G20が終わり、今後トランプ大統領はTPPではなく、日米FTAの締結を迫ろうとするでしょう。その際、日本の政治家が安易に農産品の関税を引き下げるといったことがないようにしていただきたいと私は思います。

     そもそもトランプ大統領が、米国民ファーストのためにふっかけてくることは明らかです。日本もグローバル企業の保護ではなく、食料安全保障の強化の意味からも、農産品の関税引き下げについては断固として阻止することを意思表示し、かわりに消費減税をすることで米国製品が輸入しやすくなるような環境を作るというのが、一番ベターな話ではないかとも私は思っています。

     しかしながら与党自民党は消費増税をする方向で参議院選挙を戦うということなので、今後米国との通商協議は大変厳しいものになっていくだろうと私は思います。

     

     

    〜関連記事〜

    米韓FTAの悲惨な実態を報道しない日本経済新聞


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