反論になっていない財務省の”増税不要論”への反論

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     今日は「反論になっていない財務省の”増税不要論”への反論」と題して論説します。

     

     まずは共同通信の記事をご紹介します。

    『共同通信 2019/04/17 19:01 財務省「増税不要」に反論 13年ぶり地方公聴会を5月に

     財務省は17日、国有財産の売却や積極的な財政出動といった増税に頼らない手法で政府債務の解消を目指す、いわゆる「増税不要論」への反論をまとめた。10月からの消費税増税に向け、インターネット上などで盛んに活動している増税反対派に対抗した。増税の理解を得るため13年ぶりとなる地方公聴会を5月に開く。

     財務相の諮問機関「財政制度等審議会」の分科会に同日、財務省が提出した資料によると、道路やダムといった国の財産の多くは売却が難しく、政府の借金返済には充てにくい。

     積極的な財政出動でインフレを起こし国の借金を帳消しにする「シムズ理論」は、「現実的ではない」と断じた。

     

     

     上記共同通信の記事について下記1〜4の順で論説します。

     

    1.シムズ理論とは?

    2.財務省が誤解していることとは?

    3.MMT理論とその批判論について

    4.MMT批判論に対する反論

     

     

     

    1.シムズ理論とは?

     

     上記は「シムズ理論」への批判という書き方になっていますが、実際はMMT理論(モダンマネタリーセオリー)への批判とすり替えていると思われます。MMT理論の破壊力がすさまじく、MMT理論をシムズ理論にすり替えて批判していると私は考えます。

     

     シムズ理論は、2011年にノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ氏による理論で、記事では、積極財政をすることでインフレを引き起こし、実質的な借金の価値が減るという趣旨で取り上げられています。

     

     しかしながらシムズ理論は、通貨発行権を持つ日本政府と、中央銀行である日本銀行を、統合政府ととらえる点は、事実であって優れた考え方です。なぜならば、日本政府と日本銀行と統合政府として考えますと、実質的に返済しなければならない政府の負債(日本国民への返済)は減少していることになるからです。

     

     日本銀行はJASDAQに上場しており、55%の株式を日本政府が保有します。そのため、日本銀行の親会社は日本政府ということになり、日本政府にとって日銀は連結子会社となります。連結子会社の日銀が、親会社の日本政府が発行した国債を買い取るとなれば、その債務は帳消しになります。

     

     これはある会社において本店と支店の取引があった場合、連結損益計算書作成時に相殺したり、CMS(キャッシュマネージメントシステム)で、子会社が親会社からお金を借りるという取引があった場合、連結貸借対照表作成時に相殺するということと、全く同じです。

     

     

     

    2.財務省が誤解していることとは?

     

      すり替え論と思われるのは、 先述の共同通信の記事にある「道路やダムの売却が難しく、政府の負債の返済に充当できない」という言説も同様です。政府の借金=政府の負債(Government Debt)は、政府が借り入れているものであって、日本国民が銀行預金や生命保険・損害保険・社会保険料などを通じて日本政府に貸し付けているものであって、国民一人当たり800万円の貸付金が生じているのです。

     

     そもそも財務省は次の点を誤解しています。

    ●政府の目的は財政健全化でもなければ緊縮財政推進でもない

    ●財政健全化の定義は「政府の負債を減らすこと」ではなく、政府の負債対GDP比率を引き下げること

     

     財務省設置法第3条には「健全な財政の確保」というのが明文化されていますが、消費増税で実質賃金が下落して貧困化が進み、生活が苦しくなって自殺者が増えるということがあっても、明文化されている「健全な財政の確保」がゆえに増税や緊縮財政(公共事業削減など)を推進するとするならば、これは「個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重」と明文化している憲法13条と齟齬が生ずるものと私は思います。

     

     そして財政健全化の定義は「政府の負債を減らすこと」ではなく、政府の負債対GDP比率を引き下げることです。もし日本政府が「今日以降、日本政府の財政と日本銀行を統合して扱います!」と宣言してしまえば、それだけで財政健全化が達成されたことになり、デフレ脱却に向けた財政拡大の障害は普通になくなります。

     

     ところがそうなると困る人たち、即ち財務省やマスコミなどこれまで財政破綻を煽ってきた人々らにとって不都合なことが生じます。不都合なこととは何か?といえば、消費増税はやる必要がなく、公共事業を削減するといった緊縮財政も、間違っていたということになります。要は「今まで主張してきたことは間違っていました!ゴメンナサイ!」ということになり、自分たちの立場・メンツが丸つぶれになるのです。

     

     同じようにMMT理論についても、彼らにとっては自分たちの存在を揺るがしかねないヤバイ理論であるため、猛烈なMMT理論批判をしています。

     

     

     

    3.MMT理論とその批判論について

     

     そのMMT理論は、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が提唱している理論で、本ブログでも最近取り上げている話題の一つです。MMT理論の要点は、端的に下記の3つです。

    ー国通貨建ての債務について、ミクロ経済学でいう予算制約は受けない

    ∩瓦討旅餡箸蓮∪源困伴要について実物的な限界という制約を受けることはあり得る

    政府の赤字は民間の黒字である

     

     にもかかわらず財務省は上記 銑に対する反論と関係のない反論をしています。具体的には2019/04/17に財務省はMMT理論への批判について、24ページにもわたる資料として関係者に配布しています。

     

     その中で、MMT理論への批判の言説をたくさん取り上げています。一部を抜粋して原文を皆様にご紹介します。

     

    ■2019年3月15日 黒田日銀総裁会見

    MMTというのは、最近米国でいろいろ議論されているということは承知していますが、必ずしも整合的に体系化された理論ではなくて、いろいろな学者がそれに類した主張をされているということだと思います。そのうえで、それらの方が言っておられる基本的な考え方というのは、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきだ、ということのようです。

     

    ■ポール・クルーグマン ニューヨーク州立大学、経済学者 2019年2月12日 ニューヨークタイムスへの寄稿

    債務については、経済の持続可能な成長率が利子率より高いか低いかに多くを左右されるだろう。もし、これまでや現在のように成長率が利子率より高いのであれば大きな問題にならないが、金利が成長率より高くなれば債務が雪だるま式に増える可能性がある債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう。つまり、ある時点において、債務の増加を食い止めるために十分大きなプライマリー黒字の達成を強いられるのである。

     

    ■ジェローム・パウエル FRB議長 2019年2月26日 議会証言

    自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないという考えは全く間違っている(just wrong)と思う。米国の債務は国内総生産(GDP)比でかなり高い水準にある。もっと需要なのは、債務がGDPよりも速いペースで増加している点だ。本当にかなり速いペースだ。歳出削減と歳入拡大が必要となるだろう。

     

    ■ローレンス・サマーズ 元財務相長官 2019年3月4日 ワシントンポストへの寄稿

    MMTには重層的な誤りがある(fallacious at multiple levels)。まず、政府は通貨発行により赤字をゼロコストで調達できるとしているが、実際は政府は利子を払っている。全体の貨幣流通量は多いが、政府によってコントロールできるものではない。第2に、償還期限が来た債務を全て貨幣創造し、デフォルトを免れることができるというのは間違っている。幾つもの途上国が経験してきたようにそうした手法はハイパーインフレを引き起こす。インフレ税を通じた歳入増には限界があり、それを超えるとハイパーインフレが発生する。第3に、MMT論者は閉鎖経済を元に論じることが典型的だが、MMTは為替レートの崩壊を招くだろう。これはインフレ率の上昇、長期金利の上昇、リスクプレミアム、資本逃避、実質賃金の低下を招くだろう。・・・保守にとってもリベラルにとっても、そんなフリーランチは存在しない。

     

    ■ウォーレン・バフェット バークシャー・ハサウェイCEO 2019年3月15日 ブルームバーグインタビュー

    MMTを支持する気にはまったくなれない(I'm not a fan of MMT − not at all)。赤字支出はインフレ急上昇につながりかねず、危険な領域に踏み込む必要もなく、そうした領域がどこにあるのか正確にはわからない。(We don't need to get into danger zones, and we don't know precisely where they are.)

     

    ■ジャネット・イエレン(前FRB議長) 2019年3月25日 クレディ・スイス主催アジア投資家会議

    現代金融理論(MMT)は支持しない(not a fan of MMT)。この提唱者は何がインフレを引き起こすのか混乱している(confused)それ(MMT)は超インフレを招くものであり、非常に誤った理論(very wrong-minded theory)だ

     

    ■クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事) 2019年4月11日 記者会見

    MMTが本物の万能薬だとわれわれは思っていない。MMTが機能するようなケースは極めて限定的である。現時点でMMTが持続的にプラスの価値をもたらす状況の国があるとは想定されない。(理論の)数式は魅惑的だが、重大な注意事項がある。金利が上がり始めれば(借金が膨張して)罠にはまる。

     

     

     よくもまあこれだけの批判言説をまとめたものです。ある意味で財務省連中の執念を感じます。自分たちのメンツがつぶれて、今まで言ってきたことが間違っていたと恐れるならば、人はここまでできるものなのか?と思います。何しろ上記は1/4程度を抜粋したものなのです。

     

     

     

    4.MMT批判論に対する反論

     

     これらの言説に対して反対論を申し上げます。

     

     国債の「新規」発行は、金利高騰をもたらしません。むしろ下げます。例えば1億円の国債の新規発行&政府支出したとしても、下記の事象をもたらしますが、銀行当座預金は変わらないため、金利高騰はありません。

     

    「銀行の1億円国債購入」=「日銀当座預金1億円縮小」

    「政府支出を受注した業者の1億円小切手の銀行での換金」=「日銀当座預金1億円増加」

     

     そして市場においては1億円の資金供給を意味します。その資金が市中の国債マーケットに流入すれば、むしろ金利は下がることになります。つまり金利は「インフレ/経済成長」によって、資金需要が拡大して初めて上昇するのです。

     

     また「インフレ率に歯止めがかからない・・・」に対しては、例えばインフレ率2%以上4%以下に抑える下記のような具体的な政策が存在します。

     

    (1)上限規律(インフレ率を4%以下に抑える)の具体的な対策

    ●金融政策における金融引き締め(公定歩合引き上げ、法定準備預金利率引上げ、国債売りオペレーションによる公開市場操作)

    ●財政支出の長期投資計画を立てておき、期間中インフレ率が4%を超えてしまったならば、終了年次を先延ばしにして投資速度を落とし、単年度の支出を削減(ただし、インフレ率が2%を下回れば再び加速させる)

    ●所得税、法人税の「累進性」を高く設定

    ●インフレ率が安定的に一定水準を超えれば、自動的に消費税を増税し、中長期的にインフレ率を下落させる(ただし、インフレ率が2%を下回れば、消費税の減税をする)

     

    (2)下限規律(インフレ率を2%以上にする)の具体的な対策

    ●米国でやっているような雇用保障プログラム

    →日本は生産年齢人口の減少で失業率が低いので、むしろ「賃上げ」のための対策の方が、現時点では効果があると思われる。

    ●実質賃金を下げる消費税の減税、最低でもインフレ率が安定的に一定水準(例えば2%)を超えるまで「増税凍結」

    ●長期家投資計画を立て、インフレ率が2%を超えるまで迅速投資し(投資速度を上げ)、単年度の支出を拡大させる

    ●法人税の投資減税・賃上げ減税(&外形標準課税減税)

    ●所得税、法人税の「累進性」を高く設定(低所得者減税)

    ●金融政策については、もちろん「緩和」で現状の通り

     

     上記の具体的な政策が普通に存在しますし、政策施行にあたって制約はありません。このようにMMT理論は「金利」の真実である、国債の「新規」発行が金利高騰をもたらさず、むしろ下げるという事実が盲点になっていると私は思います。

     

     

     というわけで今日は「反論になっていない財務省の”増税不要論”への反論」と題して論説しました。

     日本は「インフレ」「金利高騰」を恐れるあまり、デフレを放置しすぎました。確かに過剰なインフレや金利高騰は回避すべきであるという言説は、その通りです。

     しかしながら、だからといってこれ以上デフレを放置することが正しいか?といえば、いいはずがありません。デフレ放置によって、貧困と格差が広がり、国力が衰退し、揚げ句には中央政府も地方政府も財政が悪化してしまったからです。

     金利とインフレ率と資金供給量の現実的関係を見据えるMMT理論は、過剰なインフレとデフレと戦わなければならないことをのみならず、「金利高騰リスク」の大半が杞憂に過ぎないことも教えてくれています。

     今こそ、勇気をもって「インフレ率2%の安定的実現」に向けた積極財政を展開していただきたいと毎度ながら私は思います。

     

     

    〜関連記事〜

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