「価格下落は、需要の拡大をもたらす!」は、本当か?(ミクロ経済の「部分均衡分析」の問題点)

0

    JUGEMテーマ:経済全般

     

     今日は表題にある「価格下落は、需要の拡大をもたらす」というフレーズについて、考えます。 

     少しアカデミックな内容になりますが、ミクロ経済学の「部分均衡分析」を取り上げ、経済学者らが陥っている誤解、「経済は”常に”均衡する」の”常に”均衡しないことがあり得ることを取り上げ、「価格下落が需要の拡大をもたらさない」事象についてご説明します。

     

     

     

    1.「物価が下落すると、需要は拡大する」という考え方の根源の部分均衡分析について

     

     この考え方の根源は、ミクロ経済学の部分均衡分析と呼ばれる理論からきています。部分均衡分析の概要は下記の通りです。

     

     

     

     上記は、ミクロ経済の部分均衡分析による市場の価格調整のメカニズムです。

     「供給曲線Sが供給曲線S’へ右シフトする」とは、価格が下落することを意味します。このとき、物価が下落すると需要が拡大する”はず”という仮説のもと、数量が増えて均衡するというのが、部分均衡分析です。グラフのように、供給曲線がS→S’へ移行すると、均衡点X(1,000 1,000)→均衡点X’(1,200 800)へと移行します。

     

     需要といえば、数量だけでなく、価格もまた需要です。なぜならば、数量=実質需要、価格=名目需要だからです。この均衡分析の問題点は、”実質需要が常に存在する”という点です。わかりやすい言葉に置き換えれば、”常に物が売れる”ということ。これは、ジャン・バティストセイ(1767年のフランス人経済学者)の”セイの法則”においても前提になっています。即ち、”需要不足”を認めていないのです。

     結果、需要不足(≒「需要<供給」のデフレギャップ)が発生していたとしても、やがて需要が増加して「需要=供給」となるという誤解が生じるのです。

     

     

     

    2.身近な生活に置き換えて考える!

     

     上記の通り、需要が”常に”存在するというのは、あり得ません。ミクロ経済学の部分均衡分析は「”常に”物が売れる」「需要が常に存在する”はず”」というのが前提です。

     とはいえ、実際は”需要不足”は存在します。”常に”物が売れるということはあり得ません。この事象を皆さんの身近な生活に置き換えて考えてみましょう。

     

    <ケーススタディ 

    ●パン小売店の付加価値100円/1個

    ・仕入価格100円/1個

    ・販売価格200円/1個 ※消費税0%

    ・パン1個当たりの付加価値:200円−100円=100円

    ●販売数量30個/1日

    ・顧客数5人

    ・顧客1人につき、朝・昼・晩とパンを2個ずつ1日に”常に”6個買う

     

     

     この場合、パン小売店の1日当たりの収入(個人事業主の場合は収入、法人の場合は売上高)は、どうなるでしょうか?

     200円×(5人×6個)=200円×30個=6000円で、6000円がパン小売店の収入です。

     粗利益(≒GDP)=100円×30個=3000円で、3000円が課税所得です。

     

    <ケーススタディ◆

    ●パン小売店の付加価値50円/1個

    ・仕入価格100円/1個

    ・販売価格150円/1個 ※消費税0%

    ・パン1個当たりの付加価値:150円−100円=50円

    ●販売数量30個/1日

    ・顧客数5人

    ・顧客1人につき、朝・昼・晩とパンを2個ずつ1日に”常に”6個買う

     

     この場合は、150円×(5人×6個)=150円×30個=4500円で、4500円がパン小売店の収入です。

     粗利益(≒GDP)=50円×30個=1500円で、1500円が課税所得です。

     

     販売価格は25%減少(名目需要25%減少)しているからといって、1人が3個買う人がいるかもしれないし、居ないかもしれない。そもそも大前提の”常に”6個買うことでさえ、6個買うかもしれないし、買わないかもしれない。

     

     お分かりになりますでしょうか?

    「”常に”6個買う」「販売価格を25%引き下げれば、6個以上買う人が5人のうち誰か必ず存在する」とは限りません。価格が下がれば、必ず数量が増加して、30個以上売れるとは言い切れないのです。

     

     例えば、

    「顧客数5人のうち一人が失業してしまい、失業手当で収入が減ったから6個買えなくなった」

    「6個買っていたけど、給料が増えず将来の先行き不透明なので貯金を増やすために節約して5個買うようになった」

    「給料は増えたけど、将来の先行き不透明なので貯金を増したいから6個のままにしよう」

    というように、理由はいろいろ考えられると思いますが、「価格が下落した→数量が増加する」が常に成立するとは言えず、一人当たりのパンの購入数量が必ず増加するとは限りません。

     

     価格が下落(名目需要の減少)した場合、顧客数5人は購入数量は6個のままであれば、即ち販売数量(顧客数5人、購入数量6個)が変わらなければ、パン小売店だけが収入が減ります。当然、税収も減ります。この場合、顧客数5人は、貧乏な思いをしないでしょう。何しろパンの購入個数は変わらないのです。パン小売店だけが貧乏になって、パン小売店の人は、顧客数5人が勤務する会社の製品・サービスの購入について、購入個数・サービスを受ける回数を減らす(実質需要の減少)か、キャンペーンの値下げのときに買うようにする(名目需要の減少)となるでしょう。

     

     

     

    3.デフレを放置すると貧乏になる人が増えていく

     

     先ほどのケース、顧客数5人がすべて「給料は増えたけど、将来の先行き不透明なので貯金を増したいから6個のままにしよう」であれば、パン小売店の収入は減少しますが、顧客数5人の購入数量は変わらないため、貧乏になったという感覚はないわけです。

     

    <ケーススタディ>

    ●仕入価格250円/1個

    ●パン小売店の付加価値50円/1個

    ・仕入価格100円/1個

    ・販売価格250円/1個 ※250円のうち50円は消費税25%で、税抜き販売価格は200円

    ・パン1個当たりの付加価値:250円−50円−100円=100円

     

     もし、消費税増税25%して、販売価格が250円になった場合、”販売数量30個/1日”を常に維持できるでしょうか?

     パン小売店の人が、キャンペーンの値下げでしか物を買わない、サービスを受けない。あるいは、製品の購入個数を減らす、サービスを受ける回数を減らす。結果的に、顧客5人のうち、給料が減る人が出るかもしれません。給料が増えた人も先行き不透明で貯金を増やすこととなり、1日6個買っていたパンを5個に減らすという消費行動もあり得ます。

     

     消費増税しても常に顧客数5人が6個買ってくれるのであれば、販売数量30個で変わらないため、

     200円×(5人×6個)=6000円で、パン小売店の収入は6000円です。

     粗利益(≒GDP)=100円×30個=3000円で、3000円が課税所得です。

     

     仮に顧客数5人が5個になった場合、200円×(5人×5個)=5000円で、パン小売店の収入は5000円です。

     粗利益(≒GDP)=100円×25個=2500円で、2500円が課税所得です。

     

     この場合は、パン小売店だけでなく、顧客数も6個→5個になっているため、全員が貧乏になったと言えます。何しろ買うことができるパンの個数が減っているからです。

     

     このように、「物価が下がれば需要が拡大する!」ということは、必ずしも言えません。物価の下落という現象を放置してデフレスパイラルになると、貧乏人が増えます。

     GDP3面等価の原則でいえば、消費=生産=所得だからです。だれかが消費しなければ供給者の所得が減り、所得が減った供給者は消費者サイドになった場合に支出を削減します。支出削減することで、他の供給者の所得が減ります。このとき、物価が下落するだけならば、貧乏になりません。買う数量が変わっていなければ、貧困が進んだとはいえないでしょう。

     とはいえ、物価が下落するのみならず、数量が減ったとなれば、貧困が進んだといえます。ここで取り上げたケーススタディでいえば、食べ物を買う数量が減るということだからです。

     デフレを放置すると、究極的には貯金を取り崩して買う数量を維持するか、貯蓄や資産がない場合は生活保護を受けるしかありません。そうした場合、購買力は増えるわけがありませんので、経済は低迷を続けることになるのです。

     

     デフレを放置したとして、「物価が下落してもミクロ経済学の部分均衡分析の理論により数量が増える」というのは、「”常に”需要がある」という現実的離れした前提条件がもとになっています。しかも、無駄な公共事業、増え続ける社会保障費を削減ということを政府がやれば、その政策自体が名目需要の削減となり、実質需要の削減につながる可能性が高いわけです。

     

     実質需要の削減とは、製品の買う個数の減少、サービスを受ける回数の減少です。

     社会保障費を削減して自己負担額を増やした場合、病院に行く回数を減らそうとする人が出るでしょう。そうすれば医療法人や医師・看護師の所得が減ります。医薬品製造会社や医療機器製造会社や医療機器のメンテナンスサービスを提供する会社など、所得が減ります。

     

     

     というわけで、今日はミクロ経済学の「部分均衡分析」を取り上げ、問題点を指摘しました。また、身近な生活で考えた場合、消費増税した場合をシミュレーションにして、貧乏になっているのか?そうでないのか?といったご説明をいたしました。

     価格下落しても数量が必ず増えるとは言い切れません。ましてや消費増税なんてしたら、購入数量が維持できるどころか、購入数量が減ることも普通にあり得るのです。

     にもかかわらず、経済学者や多くの人々は、「価格下落は、需要の拡大をもたらす”はず”」「価格下落すれば、販売数量が増える”はず”」という、「”常に”需要が存在する」という誤解をしています。

     名目需要の減少(価格の下落=より安いお店で物を買う・値引きキャンペーンのときに買う)、実質需要の減少(個数・回数の減少=購入製品の個数を減らす・受けるサービスの回数を減らす)という事象は、自分が意図しなくても他人が行動することで普通に起こり得えます。

     また、規制緩和をして価格下落をする、他国と貿易協定で関税をゼロにして安い輸入品を増やす、こうした政策そのものは、意図的な名目需要の削減であり、結果的に実質需要を押し下げます。

     そして、それらの政策は、供給者の売上減少、収入減少となって、供給者が消費者サイドになったときに、さらに安いものを求め、購入個数・サービスを受ける回数を減らすという悪循環が発生します。これがデフレスパイラルです。

     ミクロ経済学の「部分均衡分析」というのもまた、政策を間違わせる原因なのでは?と私は思っています。経済学は万能ではありません。

    「部分均衡分析」に基づいた論説を振りかざす人がいましたら、今回取り上げたケーススタディを持ち出して、「”常に需要がある”なんてことはあり得ないでしょう!”セイの法則”は成り立っていないでしょう!」と、ぜひ反論しましょう。


    コメント
    コメントする








       

    calendar

    S M T W T F S
          1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    3031     
    << December 2018 >>

    スポンサーリンク

    ブログ村

    ブログランキング・にほんブログ村へ
    にほんブログ村

    recent comment

    • 英語教育について(トランプ大統領の演説を誤訳したNHK)
      永井津記夫 (12/07)
    • ハロウィーンは日本のお祭りとは違います!
      ユーロン (11/12)
    • オプジーボが医療財政の大きな負担であるため保険の適用外にしたいと思っている財務省
      SSST. (10/13)
    • サムスン電子について
      故人凍死家 (09/26)
    • 財務省の役人は、なぜ緊縮財政なのか?
      吉住公洋 (09/26)
    • 生乳流通改革という欺瞞と、イギリスのミルク・マーケティング・ボード
      富山の大学生 (06/05)
    • オランダ人の物理学者、ヘイケ・カメルリング・オネス
      師子乃 (10/02)
    • オランダ人の物理学者、ヘイケ・カメルリング・オネス
      mikky (12/01)

    profile

    search this site.

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM