「全農は協同組合だからグローバルなビジネスを展開できない!」は本当か?

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    JUGEMテーマ:農業

     

     今日は協同組合について意見します。

     

     昨夜、ある人と居酒屋で飲んでいまして、その際、農協についての話題となりました。相手の方は、「全農は、農家に対して農薬を高く売りつけ、農家は全農から高く農薬を買わされている!」と仰っていました。私は、すかさず反論しまして、農家は全農から農薬を買う義務はなく、カンセキやらニトリやらディスカウント店で農薬を買っても問題ない旨の説明をしました。「この方も真実を知らないな!」と思いましたが、「上述の誤解を持たれている方は多いのでは?」と思ったため、今日は農協の成り立ちである協同組合と合わせ、農協問題について述べたいと思います。

     

     

    1.協同組合の成り立ち

     

     もともと協同組合とは、バイイングパワー(購買力)やセリングパワー(販売力)が相対的に大きな大資本の株式会社に「小」が対抗するために構成される事業体です。

     世界史上初の成功した「協同組合」は、産業革命後のイギリスで誕生した「ロッチデール先駆者協同組合」です。産業革命によって工場における大量生産が主流となったイギリスでは、製造業に携わる労働者が劣悪な雇用環境と貧困に喘いでいました。

     さらに、労働者が日常的に購入する食料や衣料などの生活必需品について、品質の悪化や価格の高騰に悩まされていました。

     1844年12月21日、ランカシャーのロッチデールに個々の労働者の購買力を統合してバイイングパワーを高めることを目的に、大手小売商に対抗する「生活協同組合」の店舗が開かれました。これが協同組合運動の先駆的存在となった「ロッチデール先駆者協同組合」です。「ロッチデール先駆者組合」は、出資した組合員の「社会的・知的向上」「一人一票による民主的な運営」「取引高に応じた剰余金の分配」を標榜しました。要は「利益」ではなく、「組合員の共通目的の達成」を追求する組織として、協同組合が誕生したのです。

     

     「ロッチデール先駆者組合」は「生活協同組合」の元祖ですが、「農業協同組合」の元祖は何でしょうか?ドイツでライファイゼン信用組合というのがありまして、これが「農業協同組合」の元祖です。

     ライファイゼンとは、19世紀のドイツの人物で、ライン州の農村で官選村長(選挙でなく、国家などの公の機関から選ばれる村長)をしていた人です。

     当時のドイツの農村は、資本主義経済や市場原理主義の影響で窮乏化が進み、農民の没落が著しかったのです。ドイツの農民を苦しめていたのは「高利貸」です。高利貸は、農民を新事業に誘い、お金を貸し付けて返済できなくなると容赦なく財産を取り上げ、私腹を肥やしていました。

     ライファイゼンは、窮乏する農民を救うため、協会の教区ごとに貯蓄組合を創設し、組合から低利融資を行うことで農民の高利貸依存を断ち切ろうとしたのです。

     

     現在の日本の農協も、大資本の「市場原理」に各農民が対抗し、自ら豊かな生活を実現するためにできた組織であることに変わりありません。農協が信用事業(農林中央金庫)を行っていることを不思議に思う人が居るかもしれませんが、そもそも農協とは高利貸しに対抗するために、低金利のファイナンスを行うために誕生した組織です。

     

     さらに言えば、農業は食料安全保障と密接に関係する産業分野です。個々の農家の生活の豊かさの追求に加えて、農家以外の日本国民も含め、「安全で品質がいい食料を、継続的に安価で入手できる環境をつくる」ことに関わっています。

     

     

     

    2.「協同組合が善で、株式会社は悪」それとも「協同組合が悪で、株式会社は善」?

     

     私は、この記事の中で、協同組合が善で、株式会社が悪であるということを言いたいわけではありません。協同組合は組合員の生活水準の向上が目的で、株式会社は利益の最大化が目的であるということで、事業の目的が異なるという話に過ぎません。

     例えば、利益が出ない事業や地域からは、株式会社は当然撤退を検討します。

     とはいえ、協同組合は簡単に撤退できないケースがあります。なぜならば地域住民の利便性を落とさないことに加え、日本の農業協同組合のように、国民全体の食料安全保障を維持するという目的のために撤退しないということがあり得るのです。

     

     要するに株式会社と協同組合は目的も役割も違います。にもかかわらず、一つの土俵に並べ、「利益の最大化を追求しない農協は悪」という単純なコンセプトのもと、規制改革推進委員をはじめとする民間議員(竹中平蔵、新浪剛史など)、マスコミ(テレビ新聞)、安全保障を理解していない政治家、ルサンチマンにまみれた国民、こうした多くの人々によって、「農協は改革すべきである!」とやってしまっているのです。

     

     農協改革のもとになった2014年5月の規制改革会議の報告書において、「全農は協同組合だから、グローバルなビジネスを展開できない。だからこそ、株式会社化すべき!」という改革案が提示されました。その結果、今日に至るまで、ほぼその路線で突き進んでいるのが現状です。

     

     とはいえ、現実的な話をしますと、全農はアメリカからの穀物輸入というグローバルビジネスにおいて、様々な子会社((株)全農グレインなど)を設立し、カーギルなどの穀物メジャーと真っ向から競合しています。アメリカのカーギルにとって、全農は目障りな存在です。

     その全農はアメリカで調達した穀物を、日本だけでなく中国などの他のアジア諸国に販売しています。これは利益追求を目的としたビジネスというわけではなく、日本の畜産業に安定的にかつ安価に配合飼料を供給できるようにするため、バイイングパワーを高める努力をしているのです。

     全農は「超」を10個くらいつけてもいいほど、グローバル市場で戦っている事業体、というのが事実です。

     

     

     

    3.世界でグローバルに活躍する様々な協同組合

     

     グローバルに活躍する協同組合を紹介したいと思いますが、まず次の記事を見てみましょう!

     

     以下は2017年1月17日の日本経済新聞の記事です。 

    『日本経済新聞 2017/01/17 16:56 全農、海外市場開拓に布石 ブラジル穀物大手に出資

    全国農業協同組合連合会(JA全農)は17日、ブラジルの穀物大手、ALDC(サンパウロ市)に出資すると発表した。内需が頭打ちになるなか、将来性が見込める海外への投資を進め、市場開拓をはかる。

    全農はALDCへ共同出資する穀物メジャー、ドレファスのブラジル法人と現地資本で最大の穀物集荷業者であるアマッジから株式を取得する。保有比率は33.3%になる見通し。出資額は非公表だが、50億〜90億円となる方向で調整している。

    米国への依存が大きい飼料原料の調達先の分散化とともに、将来的に中国や東南アジア、中東などへ穀物を輸出する三国間貿易の強化を目指す。ブラジルは穀物生産が伸びており、全農は現地にあるグループ会社を通じて提携先を模索。16年12月以降、ドレファスとアマッジとの3者で協議を重ねていた。(後略)』

     

     

     記事では「三国間貿易を強化する」とあります。この記事は、穀物の供給先を米国だけでなくブラジルを供給先に加えることで分散化を図って中国や東南アジアや中東への輸出の強化を目指すということが書かれています。まさに三菱商事や三井物産をはじめとする商社のような働きをグローバルに展開しているのです。

     

     協同組合は「グローバルビジネスができない」と主張する人は、上述の事実を知ってて語っているのでしょうか?それとも知らないで語っているのでしょうか?

     

     世界では日本の全農に限らず、グローバルにビジネスをしている協同組合は数多くあります。

     

     例えば、ニュージーランドのGDPの約2.8%を稼ぎ出し、輸出総額の約25%を占める同国最大の組織である乳業組合フォンテラは、普通に協同組合です。

     

     2000年には、デンマークとスウェーデンの最大手の組合が合併し、アーラフーズという協同組合が誕生しましたが、アーラフーズはデンマークの乳量の90%超を集乳する同国最大の協同組合で、販売先は何もデンマークだけではありません。ヨーロッパ各国、アメリカ、中東、アジアにまで及んでいます。また、工場はヨーロッパをはじめ、世界の主要各国に63の工場をもっていて、100社以上の系列子会社を展開しています。

     

     オランダのユレトヒトに本拠を置くラボバンク・ネダーランドは、農業組織向けの金融機関です。ラボバンクは金融ビジネスを世界的に展開していまして、日本の投資家向けにアグリボンドという債券を、大和証券や日興コーディアル証券やみずほ証券などを使って販売しています。また日本にも、東京に支店があります。場所は、港区愛宕の愛宕グリーンヒルズMORIタワー17Fで、ラボバンク・ネダーランド東京支店というのがあります。

     

     全農、フォンテラ、アーラフーズ、ラボバンク・ネダーランド、いずれも協同組合でありながら、グローバルにビジネスを展開していますが、この事実を無視し、規制改革会議や安倍政権は、「グローバルで戦うために株式会社にすべき!」という極めて抽象的かつ間違ったロジックを持って、農協改革を推し進めようとしているのです。

     

     

     

    4.全農の生産資材が高くなる理由

     

     確かに全農は、農産物の流通において30%前後の高いシェアを維持していて、肥料や農薬といった生産資材の市場でも50%前後を占有しています。だからと言って、市場を独占しているわけでも何でもありません。

     そもそも農協にしても農家にしても、全農から肥料や農薬を買う義務はありません。農協や農家にとって、全農から生産資材を買うか否か?は自由です。

     もし、全農が批判されるケースがあるとすれば、農産物市場や生産資材における高シェアを活用して、ダンピング的な安売りを展開して、ディスカウント的な安売りを展開して、他業者を排除しようとする場合ではないでしょうか?

     市場シェアが大きい全農は、例えば「高い市場シェアを活用して、一部の分野において原価を下回るダンピング販売によって競合他社を排除する」といったビジネスモデルを採用することが可能です。

     

     全農が、競合を排除するために極端に安い価格で生産資材を販売しているならばともかく、高く売っていることで批判される”いわれ”はないのです。農協や農家からすれば、全農の商品価格が高いならば、他の業者から買えば済む話であり、「全農が高く売りつけている」というあたかも全農が悪いという印象を与えるような表現は間違っています。

     

     因みにですが、全農の生産資材が他業者より高くなるケースはあり得ます。理由は全農は、農協や農家に「営農指導」というサービスを無償で提供しています。また、配合飼料の成分について基準値よりも余裕を持たせたりもしています。結果的に全農の商品価格は高くなることがあり得るのです。

     とはいえ、農業全般に対するサービスを提供している全農と、単純に生産資材の販売のみを提供する一般業者とは、業態が違うわけであり、一概に「全農の商品価格が高いのは、全農の努力不足でけしからん」とはならないことが、上述を知ればご理解いただけるのではないでしょうか?

     

     

     

     というわけで、読者の皆さんの中には、「農協は、けしからん!」と思われていた人に、ぜひ事実を知っていただきたく、協同組合をテーマとして意見をさせていただきました。

     読者の皆さんの中には、「全農は、農薬や肥料を農協や農家に高く売っている。だから農協改革が必要だ!」と思っていた人も居られたと思いますが、この手の論説に対して知識がない場合、コロリと騙されて「全農はけしからん!やはり農協改革は必要だ!」となって愚民化される日本国民が増えていってしまうことを、私は大変に恐れています。もはや日本の安全保障が崩壊し、亡国へと突き進んでいくことを懸念しているのです。

     ぜひとも、協同組合についての真実を皆さんに知っていただきたい、そう願っています。

     

    <フォンテラ・ジャパン株式会社:親会社はニュージーランドのフォンテラ協同組合>

     

     

     

     

     

     

     


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