制海権や制空権ならぬサイバー空間を制するために5G覇権を戦っている米国と中国
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米中貿易戦争がずっと続いていますが、戦争といえば、かつては制海権、現代では制空権を握ることがまず先決ということで戦争が行われていました。
ところが通信技術の5Gによって、今後の戦争は制海権や制空権ではなく、サイバー空間での戦いをいかに制するか?がカギになるかもしれません。
そこで今日は「制海権や制空権ならぬサイバー空間を制するために5G覇権を戦っている米国と中国」と題して、
1.自動車のハッキングという経験したことのない脅威
2.サイバー部隊に米国の20倍以上も人員を投入する中国共産党政府
3.サイバー空間を中国が制するというシナリオは悪夢でしかない
上記の順で論説します。
1.自動車のハッキングという経験したことのない脅威
皆さんは「5G時代は革命だ!」というようなことを聞いたことがあるでしょうか?5Gといいますと、例えば2時間の動画が3秒でダウンロードできたり、通信速度が格段によくなったり、全てのモノがインターネットを通して繋がる夢のような時代が来ると言われています。
また2019年12月には安倍総理も「大胆な税制によって5Gへの投資を後押しする」として、5Gの導入に期待を寄せています。
ところがその5Gが、私たち日常的に使っているものを兵器にしてしまうことをご存知でしょうか?あるいは5Gになることで今までは考えてもいなかった危険が差し迫っていることをご存知でしょうか?
日本経済がバブルで絶好調だった頃、「数年後にバブルが崩壊する」といっても、ほとんどの人は「そんなことがあるはずがない」と信じなかったように、5Gが兵器になってしまうことも、あまり信じられないかもしれません。
革命といわれる5Gについて、「自動運転車」が特に5G時代の目玉とされています。実際にトヨタやホンダなどの日本の大手企業も開発に乗り出しています。
ところが「自動運転車」はハッキングによって乗っ取られ、遠隔操作される危険性があります。
遠隔操作されるということはどういうことか?といえばハッキングした車を崖から突き落とすことも、他の車に衝突させることもできることに他なりません。
しかしながらそのようなSF映画のようなことなど、起きるわけがないと思う人がいるかもしれませんが、現実には車のハッキングを行った事例はいくつも存在します。
例えば2017年米国のラスベガスで開催された世界的なセキュリティカンファレンス「Blackhat2017」において、中国のテンセントの研究者は「バッテリー充電スポットからネットワーク経由で侵入し、米国のテスラ社の電気自動車をハッキングした」と発表しました。
日経XTECHの記事をご紹介します。
『日経XTECH 2017/07/28 11:19 こうしてTesla車を遠隔ハッキングした、中国Tencentが詳細を公開
米Tesla Motorsの「モデルS」に遠隔攻撃ができる脆弱性があることを発見した中国Tencentのセキュリティ研究者が2017年7月27日(米国時間)、開催中の「Black Hat 2017」でその手法の詳細を解説した。車載情報端末の脆弱性やファームウエアアップグレードの脆弱な仕組みが攻撃を可能にしていたことが判明した。
Tencentのセキュリティ研究部門である「Keen Security Labs」は2016年9月にブログ記事やYouTube動画を公開し、TeslaのモデルSには複数のセキュリティ脆弱性が存在し、ネットワーク経由で車内システムに侵入して、リモートからドアを解錠したり、運転中の車両のワイパーやブレーキを作動させたりできると公表していた。
Tencentは脆弱性情報を公開する前にTeslaに報告しており、Teslaは即時に脆弱性を修正していた。それから約1年が経過した今回、世界最大のセキュリティカンファレンスであるBlack Hat 2017で、Tencentのセキュリティ研究者が攻撃手法の詳細を解説した。
Tencentによれば、攻撃の流れは以下のようなものだった。
- Tesla車の通信機能に存在した脆弱な仕様をついて車載情報端末用の車内ネットワークに侵入
- 車載情報端末のWebブラウザーに存在した脆弱性を攻撃して、任意のコードを実行可能に
- 車載情報端末のLinuxカーネルに存在した脆弱性を攻撃して、ルート権限を取得
- 情報端末用の車内ネットワークと、制御系ネットワーク(CAN)とをつなぐ「コントローラー」を攻撃して、コントローラーのファームウエアを書き換え
- コントローラーから電子制御ユニット(ECU)に偽のコマンドを送り自動車を遠隔操作
(後略)』
上記記事の通り、Black Hat 2017において、セキュリティ強化のための発表なので実害こそありませんが、中国Tencentの研究者は、電気自動車の車載情報端末の脆弱性やファームウェアアップグレードの脆弱な仕組みが攻撃を可能にするとして、ハッキングの手法の詳細を解説しました。
自家用車をハッキングできるという事実に、皆さんはどう思われるでしょうか?
常にインターネットと接続しているわけではない電気自動車でさえ、ハッキングされる危険性があるとするならば、車間距離や交通状況など、全ての情報がインターネットと繋がる「自動運転車」はより簡単に、そして瞬間的に”乗っ取る”ことが可能になるでしょう。これは自動運転車とスマホが繋がっていれば、スマホをハッキングするだけで車を遠隔操作できてしまうことを意味します。
となれば自分が運転する自家用車が突然暴走して崖に向かって全速力で突っ込んだり、歩いている人をひき殺してしまったりして殺人犯になってしまうだけでなく、自らも道を歩いているときに突然自家用車が突っ込んできて殺されてしまうことすらあり得るようになるのです。
サイバーセキュリティ企業の「Deep Instinct社」によれば、ハッカーによって自動運転車は凶悪なキラーロボットになると警告しています。それでも自動運転車がハッキングされるということ自体、飛躍しすぎていて実感が湧かないと思う人もいるかもしれません。
自動運転車以外で身近な例で考えるならば、スマホでドアの開閉ができるスマートロックが普及すると便利なイメージがありますが、スマホをハッキングされると簡単に家に侵入できてしまうことになります。
また5Gは医療分野においても、5Gが導入されるロボットで遠隔医療手術が可能になると言われているのですが、医療機器がハッキングされた場合、果たして生きて病室を出ることはできるのでしょうか?
このように私たち身近な生活分野でも5Gが普及すればするほど、大きなリスクがあるということがいえると思います。
2.サイバー部隊に米国の20倍以上も人員を投入する中国共産党政府
ここまで5G時代のリスクについて述べてきましたが、さらにショッキングな話があります。それは5G導入によって、IT技術を使ってサイバー空間を掌握しようとする野望を持つ中国共産党にとっては非常に好都合だということです。
中国共産党政府は、5G技術を真っ当に使えばいいですが、そんな使い方はせず、技術を悪用する為に使おうと画策しているはずです。
米国シンクタンクの民主主義防衛財団が、2018年9月に発表した報告書では、中国のサイバースパイ活動による米国企業の損害は、年間3000億ドルに上るとのことで、米国にとって「最大の脅威」としています。
その具体例として、米国のセキュリティ企業のFire Eye社によれば、中国共産党政府が密かに支援する複数のハッカー集団が、世界の医療業界のデータを標的にした攻撃を行っているという報告書を出しました。
中国は今まさにサイバー攻撃を各国に仕掛けており、そんな中国共産党政府が今、最も力を入れているのが5Gの導入です。
実は5Gになることで最も恩恵を受けるのは中国だということを皆さんはご存知でしょうか?
なぜならば現在、4Gの世界の移動通信基地の約40%を、中国のZTE、ファーウェイの2社で占めていることに加え、5G基地局については米国の約10倍にあたる35万の基地局を既に設置しているのです。
その結果、世界の約半分の情報のやり取りが、中国共産党の息のかかった企業を通して行われるということになります。
理由のもう1つとして、中国共産党は急速に軍のサイバー人材を増やし続けていて約13万人存在し、その数は米国の20倍以上にもなります。
<各国におけるサイバー部隊の人数>
上記グラフの通り、米国は中国と北朝鮮よりも人員で劣り、しかも中国とではあまりにも開きが大きすぎる状況です。日本はやっと220人体制とかその程度で、米国と比べても全く人員が不足しています。
3.サイバー空間を中国が制するというシナリオは悪夢でしかない
中国は大量データがやり取りされる基地局を抑えて、データを盗むための人材を育成しています。そのため、このまま5G時代に突入すれば、今までとは比べ物にならない速度で情報を盗むことができるようになり、自動運転車を暴走させることも、発電所に大量に電流を流して都市機能を停止させることも可能になるでしょう。
もし、中国がサイバー空間を支配する世界、制海権でもなければ制空権でもなければ、サイバー空間を制するという時代は、まさに悪夢としかいいようがありません。
それを防ぐため、トランプ大統領は中国製品を規制して「米中貿易戦争」を仕掛けました。それだけではなく、米国議会が国防権限法を制定し、2018/08/13にトランプ大統領が署名して、安全保障を理由に、2019/08/13から米国政府機関、米国軍、政府保有企業が下記5社の製品を組み込んだ他社製品を調達することを禁止しました。
●ファーウェイ(華為:世界最大の通信機器メーカー)
●ZTE(中興通訊:世界4位の通信機器メーカー)
●ハイテラ(海能達:世界最大の無線メーカー)
●ハイクビジョン(海康威視:世界最大の防犯カメラメーカー)
●ダーファ(大華:世界2位の防犯カメラメーカー)
調達禁止のみならず、今年2020/08/13から、上記5社の製品を社内で利用しているだけで、米国政府機関とは、いかなる取引もできなくなります。こうして米国の国防権限法によって、中国の5社の通信機器メーカーが名指しされました。
米国がそう動くとするならば、同盟国の日本も同じように連動していくのが普通の流れで、米国の法律は中国共産党の包囲網になっているといえるでしょう。
このように米国は本格的に中国に対して牙をむき始めているともいえるのですが、日本のマスコミは、横暴でわがままなトランプ大統領が輸出規制をして、世界経済を停滞させているなどと報道していますが、そうした表面的な報道の裏には、中国とのサイバー空間での戦争という大きな背景があることを理解する必要があります。
もちろん中国を警戒しているのは、米国だけではなく欧州でも中国を警戒する動きが活発化しています。
例えば英国のチャールズ皇太子が設立した慈善団体は、ファーウェイ社からの寄付を受け取らないと宣言したり、EUは2019年10月に5Gに関するリスク評価報告書において、ファーウェイ社を名指ししなかったものの、名指しと同等のニュアンスで警戒を呼び掛けています。
まさに時代はサイバー空間が主戦場になっていて、中国共産党のサイバー空間を掌握するという野望を防ぐための戦いが本格化しており、世界は中国共産党VS西洋社会・トランプ政権米国という対立軸で動いているのです。
というわけで今日は「制海権や制空権ならぬサイバー空間を制するために5G覇権を戦っている米国と中国」と題して論説しました。
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- 2020.02.06 Thursday
- 日本経済(防衛安全保障)
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- by 杉っ子