国際競争力を高めるために法人税を下げなければならないという言説の欺瞞

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     今日は、「国際競争力を高めるために法人税を下げなければならないという言説の欺瞞」と題して論説します。

     

     法人税引き下げるということは、どのような発想が背景にあるのでしょうか?

     

     例えば、法人税を引き下げれば、手元に残るお金が増えるので、「従業員への還元ができるようになって給料が増えるであろう!その結果、消費が増えるだろう!」とか、「設備投資をするだろう!」などとする言説を耳にする機会もあるでしょう。

     

     しかしながら、デフレが放置されている状態では、法人税がどれだけ下がろうとも、従業員に還元することは難しく、設備投資が増えるということもありません。たとえ、金利がどれだけ下がっても、デフレ環境では設備投資を増やせるはずがないのと同じです。

     

     なぜならば、デフレ環境では、モノ・サービスの値段を下げなければ、自社製品・サービスを買ってくれないため、値段を下げて売ることになります。値段を下げて売るということになれば、銀行から借り入れて設備投資をしていたとして、その借入金の返済がしにくくなるということは容易に想像できるでしょう。

     

     よくある言説で「日本の法人税は世界的に見ても高く、税率を引き下げなければ企業が海外に逃げていく」といった指摘がされることもありますが、この指摘は果たして真実なのでしょうか?

     

     私は全くウソ・デタラメだと思っています。だいたい日本企業すら「儲からない」という理由で投資を控える国で、法人税を引き下げたところで外国企業の投資が増えるはずがありません。

     

     米国ではトランプ政権になって経済が絶好調であるため、工場を移していた米国の企業が、工場を米国に戻そうとする動きが出てきています。その米国企業も、米国本土から逃げていったわけではなく、工場を他国に移転したというだけのものであって、米国の法人税が高いから取って、米国本土から逃げて行った企業はありません。

     

     何がいいたいかと言えば、経営者が考えることは、法人税率や金利よりも、まず第一に需要があるか否か?です。需要があって初めて儲かる環境ならば投資してみようか!ということになり、金利計算や税金の計算をして、手元残るお金を計算します。金利がどれだけ低かろうと、法人税がどれだけ下がろうとも、儲からない環境では投資しません。投資していたらその社長は、経営者失格といえるでしょう。

     

     もう一つ、儲かる儲からないという話とは別に、そもそも企業は法人税をちゃんと納めているのか?という議論があります。日本には租税特別措置法というのがあり、業界の事業に合わせて減税できるルールになっています。

     

     大企業には法務部など、法律に詳しい人がたくさんいる一方、中小企業にはそのような人材がいません。その結果、法律に詳しい人を抱える大企業は、租税特別措置法を活用して陳情し、どんどん減税しています。

     

     かつてトヨタ自動車が2008年〜2012年の5期で、5年間連続で税金を払っていないという実績がありました。また、その頃、主要大企業で法人税の実行税負担率が低い順に、上位4企業を並べると下記の通りです。

     

     みずほ銀行

     税引前利益(百万円) 469,327百万

     法人税等(百万円) 2,431百万円

     実行税負担率 0.5%

     

     三井物産

     税引前利益(百万円) 697,493百万

     法人税等(百万円) 38,735百万円

     実行税負担率 5.5%

     

     三菱商事

     税引前利益(百万円) 1,284,671百万

     法人税等(百万円) 75,460百万円

     実行税負担率 5.8%

     

     三井住友銀行

     税引前利益(百万円) 2,270,821百万

     法人税等(百万円) 171,865百万円

     実行税負担率 7.5%

     

     

     商社の実行税負担率が低い理由は、外国税額控除に加え、麻生政権の2009年度の税制改正で導入された外国子会社からの配当金の非課税制度の影響ではないかと思っています。当時、麻生政権の時、日本国内の投資を促すためという理由で、外国子会社の内部留保を取り崩させ、配当で日本へ還流させようとして、その際の配当金に課税されないようにするという税制改正が行われました。

     

     そこで低税率国に子会社を作り、負担率を下げる企業も増えました。その影響で、実効税率とは別に実質法人税負担率は、どんどん低下していき、さらに租税特別措置法といった制度を使って優遇され放題になっているというのが、現在の日本の現状です。

     

     その一方で、一般庶民からは2014年に消費増税8%とし、2019年10月からは消費増税10%になろうとしています。一人当たりの消費額300万円として、消費税額は30万円にもなりますが、大企業を中心に法人税をどんどん払わなくなっていって、逆に普通の国民から消費税で幅広く税金を徴収するというのは、本来の税金の意味である所得再分配機能というものを忘れてしまっているのではないか?と思うのです。

     

     例えば首都直下型地震のリスクを鑑みて、首都に人口が集中することを回避するため、地方で雇用を増やすために、本社を地方に移したら法人税を引き下げるというのは、安全保障の強化になるので、ありかもしれません。

     

     しかしながら他国との競争のために法人税率を引き下げ、他国の投資を促すといった言説は、まるで発展途上国の発想に等しいということに気付いていない愚者の言説です。

     

     発展途上国は自国の通貨が弱く、インフラ整備を自国でできません。そのため外貨で他国から技術を取り入れるということをしなければならず、他国のサービスや技術を買うには、決済通貨はドルで外貨となります。そのため外貨を貯め込むという行動に出るのは、わからないでもありません。

     

     日本は先進国であり、対外純資産が300兆円を超える世界一の金持ち大国であり、その日本が法人税を引き下げて外国の投資を促すという言説は、全くをもって正当性がないと私は思うのです。

     

     

     というわけで今日は「国際競争力を高めるために法人税を下げなければならないという言説の欺瞞」と題して論説しました。

     

     

    〜関連記事〜

    税金の役割とは何なのか?

    「法人税が高いと企業が海外に流出してしまう!」というウソ

    「所得税を減税しないと富裕層が逃げていく!」は本当か?

    金利が下がれば設備投資が増えるは本当か?(魚の仲買人さんのビジネスモデル)


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